中外製薬
3年連続最高「自社新薬」で止まらぬ業績拡大
2020/9/29 AnswersNews編集部 前田雄樹・山岡結央
2019年度まで3年連続で過去最高業績を更新中の中外製薬。血友病A治療薬「ヘムライブラ」をはじめとした自社創製品の売り上げが好調で、海外収益も拡大。今後の成長を担う新技術の開発も進んでおり、20年には独自の「リサイクリング抗体技術」を適用した新薬を発売しました。
ヘムライブラで3年連続の最高業績に
中外製薬の業績拡大が止まりません。
19年度の売上収益は前年度比18.4%増の6862億円、コア営業利益は同72.6%増の2249億円となりました。売上収益・コア営業利益ともに3年連続で過去最高を更新。国内の上場製薬企業42社の全体(売上高12.9%増、営業利益6.4%増)を大幅に上回る成長を成し遂げました。
好業績を牽引したのは、血友病A治療薬「ヘムライブラ」、関節リウマチ治療薬「アクテムラ」、肺がん治療薬「アレセンサ」など。スイス・ロシュの発表によると、ヘムライブラの19年の売上高は13億8000万スイスフラン(約1546億円)に達しました。ヘムライブラは、インヒビター(血液凝固第VIII因子製剤の効果を弱める中和抗体)を持つ患者にも使用できる、最長4週1回投与の皮下注射剤。血液凝固製剤が中心だった血友病Aの治療にブレークスルーをもたらし、17年11月の発売からわずか2年でブロックバスターとなりました。
勢いは20年度も止まらず、売上収益は7400億円(前年比7.8%増)、コア営業利益は2750億円(22.3%増)となる予想。株式市場の評価も高く、時価総額は製薬企業トップです。
自社創製品好調で、海外収益も拡大
業績拡大は、収益構造にも変化をもたらしています。
5年前に10%台だった海外収益比率は、19年に35%に拡大。同年の海外での製品売上高は1513億円で、前年と比べて18.3%増加しました。20年もヘムライブラを中心に売り上げを伸ばし、海外収益比率は44%に達する見通しです。
小坂達朗会長CEOは、「国内を収益源、自社創製品の海外展開を成長源とする構造は不変」としながらも、「将来的には(海外と国内が)フィフティ・フィフティというのも十分あり得る」と説明。先行きが厳しい国内から海外へと足場を移すことで、さらなる業績拡大を狙います。
19年のコア営業利益率は32.8%で、収益力は国内製薬企業の中でもトップクラス。自社創製品に関するロシュからのロイヤリティが、利益を押し上げています。02年にロシュの傘下に入った同社は、自社製品をロシュの販売網にのせて海外展開。19年度はヘムライブラを中心に売り上げが伸びたことで、ロイヤリティ収入は973億円にふくらみました。
ロシュと提携した02年と比べて、売上高は2.8倍、営業利益は7.0倍に拡大。ロシュ品の国内販売で基盤を固め、そこから得られた収益を独自研究に投資して画期的新薬を生み出すという好循環が、高い成長をもたらしています。
抗体医薬の創薬に強み 「発明」を目指す
中外の大きな強みは抗体医薬。05年には国産初の抗体医薬「アクテムラ」を発売し、ヘムライブラとともに業績の柱となっています。
中外は現在の新薬開発を取り巻く環境を「発見の時代から発明の時代へとパラダイムシフトしている」(根津淳一研究本部長)と説明。分子や機能の発見に発明を掛け合わさなければ「医療上の価値を生む主体」を生み出すのは難しいといいます。
2つの抗原結合部位がそれぞれ異なる抗原に結合するバイスペシフィック抗体のヘムライブラは、そうした発明から生まれた新薬の代表格。抗体で血液凝固因子の機能を代替するというアイデアと、効率的な生産方法の発明が、ブロックバスターを生み出しました。
バイスペシフィック抗体に続く抗体技術として、「リサイクリング抗体」「スイーピング抗体」「スイッチ抗体」などの開発も進んでいます。
繰り返し抗原に結合できる「リサイクリング抗体」は、視神経脊髄炎スペクトラム障害治療薬「エンスプリング」(一般名・サトラリズマブ)として20年8月に日本で発売。米国やカナダでも承認を取得しています。リサイクリング抗体ではこのほか、発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬crovalimabが臨床第1/2相(P1/2)試験、子宮内膜症治療薬「AMY109」がP1試験を実施中です。
スイーピング抗体は、抗原を血漿中から除去する抗体です。この仕組みを初めて適用した新薬候補が、視神経疾患を対象とした「GYM329」。筋力低下を引き起こすミオスタチンをスイーピング抗体で除去するもので、カニクイザルを使った実験では、血症中の潜在型ミオスタチン濃度を1000倍以上低下させることに成功しています。
スイッチ抗体は、疾患部位にある標的抗原にのみ結合する抗体のこと。抗体医薬品の課題だったオンターゲット毒性の克服が期待され、従来の抗体では副作用を理由に狙えなかった標的に対しての創薬も可能になります。「STA551」が固形がんを対象に臨床試験に入ったほか、創薬フェーズで6つのプロジェクトが走っています。
研究開発をさらに強化するため、新研究所「ライフサイエンスパーク横浜」の建設も進んでいます。近年は中分子の研究にも力を入れており、浮間研究所には新たな合成実験棟を竣工。藤枝工場には新製造棟を建設中です。
中外は19年に研究開発費が初めて1000億円を突破。実額としては前年から大きく増加したものの、売り上げの拡大で研究開発費率は前年を下回りました。好業績を背景に積極的な研究開発投資が続く見込みで、継続的な新薬創出が期待できそうです。
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